取扱説明書制作におけるページ単価見積りを終わりにしたい

取扱説明書の外注制作単価ってページ単価であることが多いです。

製版コストでの積上げと作業量という観点は妥当性があるというか、それ以外に受発注両社の合意が取りやすい評価尺度が無いので、未だに算定基準として用いられているというのが正直なところでしょうか。

でも「良い取説」って短くって簡潔で、必要なところだけ読んでトラブルや引っかかっているところを解決してくれる取扱説明書なんですよね。

欲を言えばアップルの製品みたいに取扱説明書なんて最低限しか入っていないのが好ましい。取扱説明書読まなくても使えるのが最高の製品で、取扱説明書なんてないほうがいい。当然です。

でも、世の中の製品はそこまでシンプルにできるものばかりではないし、取扱説明書をなしにすると使えなくなる、使いずらい製品も当然ある訳で、取扱説明書というのはまだまだ必要です。でもいずれにしろ取扱説明書が分厚くて何処に何が書いてあるのか分らない、メーカーの客相に問合せて「何ページをご参照ください」と言われて初めて書いてあるのに気がつく、なんていう取扱説明書は最低です。(一時期の東芝みたいに分厚くって、しかも分冊で、でもINDEXがしっかりしてるから論理構造が分ればすごく分りやすい探しやすい取扱説明書っていうのも好きですが、あれって理系や家電好きな人以外には多分取扱説明書の取説が必要だったんじゃないかとも思います。)

閑話休題。。。

いずれにしろ大筋で「取説は簡潔で分りやすいものが望ましい」という点についてはあまり異論は無いと思うんですが、制作側からすると困ったことに取扱説明書制作を外注すると制作コストが「ページ単価」なのです。

「短く簡潔で、製品思想が伝わり、読んですぐ分って必要な情報に辿りつきやすい取扱説明書を"少ないページ数"で作ってね」とお願いする理不尽さwww

以前「ロゴデザインなんて5,000円でもいいんじゃね?」と言って炎上してしまった事案がありましたが、ホームページ制作とかデザイナー系だと「あの人だと一案件いくら」みたいな感じで制作量とはリンクしない制作費用というのがあったりします。

でも取扱説明書って、もちろん会社ごとに単価は違うんですが、基本的にはページ単価が基本なんですよね。

「簡潔で分りやすい(結果としてページ数も少ない)」取扱説明書を"上手く"作ると、収入が減るという暴虐。腕がよければ良いほど、低収入に陥っていく謎のスパイラル。。。

「分ってるんだったら、ホームページやロゴ同様に案件いくらで払えよ」という声が聞こえてきますが、それはそれで「社内をどうやって納得させるか」「案件単価の妥当性を検証する術がない」などの問題が発生します。

取扱説明書はホームページと違って「製品のコスト」ですから、広宣販促費みたいなエイヤっていうのがきかない/ききにくいんですよね。

ご存知のとおりメーカーというのは一銭単位の原価低減に血眼をあげておりますが、困ったことに取扱説明書というのは部品同様に「原価算入」されるため、そのコストの算出基準というのは妥当性と検証性が求められます。

営業の広宣販促費は効果なくても100万単位で「えへへ、ダメでしたぁ」で済まされるのに、取扱説明書には許されないこの理不尽さ。困ったもんです。

あと原価なので「出来がいいから多めに払う/成功報酬」みたいのも当然出来ませんし(販促物も"没"はあっても出来がいいからボーナスというのはないですけどね・・・)、どちらかというと見積りと差分が出ると原因を多くても少なくても原因を追究されたりします。

一般的にも知られている有名なデザイナー/Webデザイナーっていても、有名な取説制作屋さんって業界外で知られている人なんていませんもんね。だから「この人(会社)はすごい人(会社)で、こういう案件単価になるんですよ」と言っても取説サークル外の人に言っても通じない。

じゃぁ、「簡潔で分りやすい取扱説明書を作るのは通常のメーカーの手順の中では無理なのか?」というとそうではなくて、「簡潔で分りやすい取扱説明書を作りたいのでコスト試算方法を今までとは変えます」というのが偶然通ることがあります。

商品プロデューサーだったり、事業部長だったりになんかのタイミングで話してみると、「いいんじゃない?というか、何でそんな当然のことをやらないんだ???」みたいなことを言われてあっさりできちゃったりします。

営業とかマーケからすれば、広宣販促費やロゴに数百万~数千万かけたりするのに、取扱説明書を良くするための費用をケチる意味がそもそもわかっていなかったりします。

だから簡単に「やれよ~」という話になったりする。でもそれじゃ、全てはタイミングの問題なので、運ですよね。

それで、結果責任は「簡潔で分りやすい(結果としてページ数も少ない)」取扱説明書を制作した担当者が取ることになって、問題があれば追求され、問題がなくても誰も(取説サークルを除いて)褒めてくれないのが取扱説明書屋さんの悲しいところです。

それでも取説屋さんはWeb屋さんみたいに「俺の作ったサイトすごいでしょ、かっこいいでしょ、苦労したんだよ、頑張ったんだよ」なんて言うことは言わずに、他の取扱説明書と見比べて「あぁ、やっぱりこうした方がよかったのかな、もうちょっと良くなるよな」と自分の至らなさを感じながら次の業務に向かいます。

いや、頭が下がる。でも、だからスキルの割に収奪されるんだよね。取説屋さんは、もうっちょっと自己主張してもいいと思う。デザイナーとかWeb屋さんに比べると、スキルとか仕事の精度という意味では圧倒的に高いんだから。

ということで、「簡潔で分りやすい(結果としてページ数も少ない)」取説を作るための手法というのはないんだけど、ページ単価での取説制作ってもうやめにしたいなぁ、と。

 

■追記というか付け加え

取扱説明書制作コストがページ単価なのって、印刷業者さんが取扱説明書制作業務に進出してきてるのがいけないんじゃないかと。印刷業者さんはDTPと印刷で儲けたいので、あんまり取扱説明書制作スキルで適切な対価を得ようという気が少ない(特に印刷会社の営業さん)。だから、スキルのある取扱説明書制作業者のコストまで下止まりしてしまうんじゃないかと。